音の響き渡る中に、飛び入る 鈴木昭男 Suzuki Akio

鈴木昭男、75になりました。もう75歳半です。
今までどういう動きがあって、こうなってきたかなっていうのは、頭の中でね、イメージをしてたんですけど。ハノイに来ると、ふたが開いてすごいアトリエ風景に出合ったんで、まずはびっくりしました。
 今回のイベントには、参加者の人たちがグループに分かれて、もう既に作業が進んでいる段階で参加させてもらったんで、音の響き渡る中に、飛び入ったわけですよね。丹後に住んでいると静かな暮らしをしていたので、いささか、こう、ハノイに夜到着して、空港からホテルまで、すごいライトの夜景の中を走り、そしてあくる日は、バイクの人たちが群れているそういう町中から、アトリエの音の響きの中に入ったということですね。渦の中に急に飛び込んだっていう感じ。



グループそれぞれに、とても、音の探求の仕方に独特の性格を持っておられる人たちに会えて、びっくりしましたね。音に聴き入るというか、そういうベトナムの人たちを感じました。日本人としては、ずいぶんヨーロッパ教育を受けちゃっているだけに失ったものがいっぱいある中に、もっと繊細な音を聴いて、聴き届けたりする人たちに出会えたなと思います。

例えばですね、水田で「ゲコゲコ」と鳴くそのカエルの音を聴いていると、うまい下手ってないわけですよね。みんな必死に、多分あれはメスガエルを目指してオスが自分の鳴き声を聞かせているわけで、それで相性のいい相手に出会うという、それぐらいの必死さで、カエルたちは音を出しているわけでしょうけど。それがうまい下手っていうのはないわけですよね。そのような、こちらの人たちの音の出し方っていうのを聴いていると、どう転んでも生きた音にしていくような音の探り方を持っている人たちに出会えたなって。音楽教育を受けちゃうとなんかドレミにこだわっちゃったり、音階的になったり、先生に、うまい、下手で分けられる世界が僕らの中にはあったけど。原点に戻るというか、そういう人たちに会えて、僕自身もなんか平和な気持ちっていいますかね。で、彼らに接することができて僕自身も突っ張らなくてよくなったところが、まずうれしかったです。

もちろん、ベトナムの人がヨーロッパ的な音の教育を受けていなかったわけではなくてね。僕らよりももっとヨーロッパに近いし、もっと先人がたどり着いたりしているところでしょうから、変な言い方をしちゃいけないんでしょうけど。たまたま、それぞれのキャラクターがすごいということもあるのか、かえってこちらのほうが刺激されましたね。一例といいますかね。筒にゴムを張って楽器を作っている人たちがいて、それは普通叩いたりいろいろしているんだけど。僕はこういうのを吹くのが得意なので、吹くためのテンションをこのゴムで作ってみましたね。



コントロールが全然利かないような楽器ができて面白いなと思ったり、ずいぶんいろいろなことに影響を受けています。彼らの中に昨日も丸いボールを持ってきて、それを石っころで突いてね、バイブレーションが起きるのをやっていて、へえっと見てたら、鈴木さんもやってみてとか言うから、やったところうまくいかなくて。その突き方の素晴らしさっていうか。僕は聴いているほうがいいなって思ったりしましたね。だから、勉強ばっかりさせていただいているんです。ついつい、なんかリズム的になっていってしまったりするからね。それよりももっと音を聴くっていいますかね。そういうことはこれから大事なことだと思うんですね。

地球が一つの人体だと思うと、このハノイの町の道路をバイクが「ブルルル」と通り過ぎるのを一種の血液のような、血液が流れているようにとらえていったり。音もそうですよね、良質なことを探らない限り、これからその血液が滞ったりね。空気が汚れたりいろいろするわけで。僕らは音人間として、地球のためにも良質な音の聴き方をね、これから探る時代が来るというか。社会運動家ではないから、自分自身それを心がけて生きることで清らかな人たちと出会うという、そういうことを進めていくと、少しは人体としての地球が長持ちするかもしれないと思うんです。常にそういうことを思いながらやっているわけではないですが。僕自身も音が大好きなので良質な音を聴くことで友だちに会えるという感じがありましてね。そういうコミュニケーションができることが一番嬉しいし。

ここにいる誰もがそれぞれの自分の歴史を背負って、今、同次元的に接しているわけですけどね。僕なんか75年過ごしちゃってきても勉強になるばかりです。

今回のイベントは、まだ明日が最終日で盛り上がるときなのでね、今はまだ何とも言えないぐらいにみんなの力がぐわっと盛り上がるんじゃないかと思って、まだわくわく感があるぐらいで。僕はこういう人間なんで、体験型なんですよ。あまり希望も持ってないし、人って放っておくほうが、すごい力が出てくるんですね。何か意見を言っちゃうと委縮しちゃったり、他人の意見にこだわっちゃったりして。また、そうではなくて、グループの中で一人抜きんでて生きた表現者がいたら、その影響でどんどんみんなも、こう影響し合うということがままあるんで。爆発的なことが生まれる場合もあるし、特に大友さんの力っていうんですかね。皆さんを引き付けて、次の段階にみんなを上げていく、そういう中でこのことが行われているっていうのが、本当に良質な奇跡的なイベントだなと思っています。

このテキストはハノイ・コレクティブ・オーケストラの前日に行った鈴木昭男さんへのインタビューを元に構成しました。

鈴木昭男|SUZUKI Akio サウンド・アーティスト
サウンド・アートの先駆者的存在として知られる、日本を代表するサウンド・アーティストのひとり。63年、名古屋駅中央線ホームの階段で行われた「階段に物を投げる」のパフォーマンスで音の世界に目覚め、70年にエコー音器「ANALAPOS」を創作。78年、パリのフェスティヴァル・ドートンヌにて海外で初めてのパフォーマンスを行う。88年、子午線上の京都府網野町で「日向ぼっこの空間」を発表し一日自然の音に耳を澄ます。96年に開始した街のエコ-ポイントを探る「点音(おとだて)」プロジェクトは、これまでに30都市以上で開催されている。ドクメンタ8(カッセル)、ドナウエッシンゲン現代音楽祭(ドイツ)、大英博物館(ロンドン)、ザツキン美術館(パリ)、AV・フェスティバル(イギリス)など、過去数十年に渡り世界各地の美術展や音楽祭に招待されている。http://www.akiosuzuki.com