JAMJAM日記|ベトナム編 大友良英 Otomo Yoshihide

撮影:石川直樹

2015/09/25

合奏と楽器製作のワークショップ

学生たちは朝から買い出しに出ている。6班それぞれ別行動のようだ。藤さんも僕も、各自買い出しへ。言葉は全然通じないけどホース屋のお兄さんとはすっかり仲良くなってしまった。今日はみなで使える工具をいくつか購入。日本の物価から考えると、半額以下の値段。

昼食は石川くん、有馬さん、藤さんと合流して、ホテルの近くのつけ麺屋台へ。この店はもともとは有馬さんが前回のリサーチで見つけた屋台で、あまりに美味いのでオレも連日のように行っている。こちらではこのつけ麺をブンチャと呼ぶんだけど、日本のつけ麺とはまったく違う。麺はフォーと同じ米を使った白い麺の細麺で、なんとなくべたついて、一見のびてしまった素麺みたいで残念な感じがするんだけど、その見た目にだまされてはいけません。ベトナム独特のスープ、これが店によって全然違うんだけど、ここのスープは茶色に透き通ったラーメンスープっぽい色合いで、味はベトナムの魚醤(ニョクマム)をベースに甘みと酸味が絶妙のバランスで配合されていて、さらにここにさまざまなタイプのつくねのようなミンチ肉がいく種類も入っていて、ここにのびた素麺のような麺をつけて食べると、もうたまらないくらい美味いのだ。さらに、ここにベトナム独特のハーブをつける。有名なのはパクチーだけど、それだけではなく、ドクダミの葉っぱっぽいものやら、ミントっぽいものやら、とにかく生で食べられるいろんなハーブが山盛りで出てきて、こいつと麺をミンチ入りのスープに入れながらむしゃむしゃと食べるのだ。これが、もう美味くて美味くて。この店を見つけてきただけでも有馬ディレクターに功労賞を贈りたいくらい。オレは短い滞在中に何度も行った。

いけね、あまりに美味かったんで説明が長くなっちゃいました。この店、さすがに有名らしく、しかも工具街や竹屋街の近所だったりしたんで、僕らが行くと、加納さんや未来塾塾生の牧野くんの班もここで昼食をとっていて、なんだか、あいつら楽しそうだなあ。牧野くんは、東北大の大学院生で医療機器関係の研究をしている。『あまちゃん』好きが高じて募集してきたそうだけど、まさかベトナムで地元の学生たちと楽器を作らされるとは思ってもいなかったろうなあ。こんな経験が彼に将来にどう作用するのかな。

ブンチャ(撮影:有馬恵子) ブンチャ(撮影:石川直樹)

合奏のワークショップ1

昼食後は交流基金に全員集合。今日も、まずは合奏のワークショップから。まだ楽器になる前の買ってきたばかりの台所用品やら、昨晩家で作ってきてくれた竹に穴を開けた笛等々の簡単な自作楽器も使って、みなで一緒に音を出してみる。蟹をすりつぶすのに使うアルミ製の小さな茶碗がやたらいい音をしている。それだけじゃなく、みなの持ってきたもの、それぞれがなかなか豊かな音色だ。ただ昨日同様、どうもリズムを合わせるのは苦手っぽい。それでも、さまざまな方法を試していくうちに、どんどん音楽らしきものが立ち現れてくる。不安そうだったみなの顔も、どんどん笑顔になっていく。一人が出せる音はせいぜい1~2種類だけれど、二十数名で一定のリズムで音を出し入れするだけでも充分に面白い。演奏がよくなってきたんで、裏拍を入れることを試してみたけど、そうするととたんにリズムが崩壊してしまう。これはまだハードルが高かったかな。無理はせずに、とにかくできることで最大限に面白い音楽を作っていくという方針にする。


合奏のワークショップ2

ワークショップを40分ほどやったあとは、再び各班に分かれて、楽器製作。藤さんは皆に指導をしつつ、巨大な竹を使った楽器の制作を開始。タンさんやソンくんも、みなの制作を手伝ってくれる。そんな合間に二十代のソンくんが彼のPCの中に入っている自分自身の音楽作品をオレに聞かせてくれる。どういう方法かはわからないが、地図のさまざまな情報をトリガーにして電子音が変化する作品。面白い。彼はこの先、ハノイでどんな作品を作っていくのかな。独特の人となりの彼を見て、そんなことを考えてしまった。

楽器の制作が進行している間に、地元新聞やテレビの人たちの取材を受け、さらにはハノイの美術界の重鎮チャン・ルオンさんともミーティング。今回、タンさんやソンくんの紹介を含め、ニャーサン・コレクティブはいろいろなことでお世話になっており、ルオンさんは創設時から深くかかわっている。今夜はニャーサン・コレクティブでソロとトークをやる予定なのだ。ルオンさんの歳はオレと同じくらい。ベトナム戦争時は少年兵だった経験を持つ。ここで、東京の国際交流基金からも吉岡さんが駆けつけてくれる。彼はベトナム駐在の経験もあり、ルオンさんとも古い仲だ。今夜の打ち合せをかねて、さまざまな意見交換をする。

楽器の制作を開始

ニャーサン・コレクティブでトークとライブ

夕方、楽器製作のワークショップを終え、車でニャーサン・コレクティブへ。スペースがあるのは、まだ一部内装工事中のできたての高層ビルの一室で、ギャラリースペースと、パフォーマンスもできるフリースペース、そして事務所スペースがある。コレクティブも以前の場所から引っ越してきたばかりだそうだ。

ここで第一部はルオンさんとの公開の対談、そして第二部ではわたしのソロライブをやる。会場には、若い人中心に数十人の人たちが来てくれている。楽器まわりの担当はソンくんで、アンプやマイクのセッティングをやってくれる。心強い。

ルオンさんとの対談では、わたしがこれまでやってきた音楽のことやプロジェクトFukushima! のことなんかを話し、同時になぜアンサンブルズ・アジアをやっているのか、なぜ音楽の専門家ではない人たちと「音楽家なしの音楽」をやろうとしているのかについて説明した。また、ニャーサン・コレクティブのような場所がなぜ必要なのか、そのことがもっている意味のようなことについて話をした。とても有意義なトークだったと思うけれど、でも会場に集まった人たちやコレクティブの人たちと、どの程度話の中身をシェアできただろうか。 オレはちゃんと話ができただろうか。

ベトナムと日本では、もともとの文化的な文脈が大きく違っていて、おまけに、まだ互いのことをよく知っているわけでもない。現状はまだ、互いにその違いを理解した上で話を共有する、という段階ではないような気もするのだ。これはベトナムに限ったことではないかもしれない。僕らは自分が所属している文化以外のことを、自分たちが思っている以上に知らないということを、もっともっと自覚したほうがいい。だから今はまだ互いに紹介しあう……という段階なのだと思う。その上でだけど、知らなくてもいいから、どんどん出会って、一緒に音楽を作るなり、何かをするなりしていけばいいと思っている。決して乱暴に言っているのではなく、無数のそうした出会いがあって、うまく行くものも失敗するものも含めて、雑多な試みが行われ、そんなことを繰り返して、初めて交流というものが実のあるものになる……そう思っているからだ。

トークのそんな余韻を引きずりつつ、二部は1時間ほどのギターソロを。遠慮なくいつものように、エレクトリックギターで思いっきり演奏させてもらった。やりきったと思う。急に思いついて、今日はそこに途中で、ギターの爆音の中で、ブブセラとホースを繋げた自作楽器も同時に演奏してみた。このへんはきっと映像があがると思うので、そっちを参照してください。ベトナムでの初ソロ演奏は、会場にいた人たちにどんなふうに聞こえ、届いたのだろうか。言葉では伝わらなかった何かが伝わっただろうか。

演奏終了後は、地元の若い男の子たちが質問にやってくる。世界中どこに行っても、これだけは変わらない。そして、そんな子たちが、何年か後には、自分たちの音楽を始めていることも。かつて自分がそうであったように。

ニャーサン・コレクティブ(撮影:石川直樹)
ニャーサン・コレクティブ(撮影:石川直樹)

ニャーサン・コレクティブ(撮影:石川直樹)