JAMJAM日記|ベトナム編 大友良英 Otomo Yoshihide

撮影:石川直樹

2015/09/24

アンサンブルズ・アジアと震災後の活動の間に

今日は、敬愛する美術家、藤浩志さん、「東北発☆未来塾」に出演する学生たち6名とそのクルー4名が大挙して日本からハノイにやってくる。いよいよ本番だ。ここに至るまで、有馬ディレクターが何度もベトナムに足を運んだだけでなく、わたしも藤さんに会いに、彼が教授をしている秋田芸術大学に行き、生徒たちとともに、その場にあるものを使って音を出してアンサンブルを組むワークショップをやったりしている。実際、6人の学生のうちの2名は、そのときにワークショップを受けた生徒たちだ。

今回藤さんに参加してもらったのは、学生や若い連中を巻き込んでのワークショップも名手だから……なんて言い方をしたら怒られちゃうかな。実際に藤さんは、日用品を使っての楽器作りワークショップなど、数多くのワークショップだけでなく、あたらしいアートの現場を作り出すようなプロジェクトを日本各地でやってきていて、そこで生まれる作品の面白さもさることながら、それをきっかけに活性化し、若い連中がその場を持続可能な現場に変えていく……そんなマジックを何度も見ていて、藤さんのもっている、そのパワーのようなものを、ぜひアジア各地でも生かしてほしいと思ったからだ。

 

何故、「東北発☆未来塾」なのにベトナムで……という疑問が出てきそうなので、いちおう説明しておこう。この番組は震災後、主に東北の復興をテーマに始められた。震災後の東北で育つ、あるいは東北とゆかりのある学生たちに大人たちは何を伝えられるのか。そんな視点から、いろいろな分野の専門家たちが塾の講師に選ばれ、それぞれのやり方で講義やワークショップを行うという番組だ。福島に入り込んでプロジェクトをやり、三陸を舞台にした『あまちゃん』の音楽をやった大友ならどんな授業をやるのだろうか……おそらくは、そんな興味から話が来たんだと思う。

実際、震災後、福島で活動していく中で、切実に必要だと感じたのは「学校」のような場だった。いや、もちろん従来の小中高や大学はあるけれど、そういう場ではなく、大人であれ子どもであれ、震災後の情況の中で、前例のないもの、正解などないもの、あるいはいく通りもの答えがあるようなものを前に、どう考え行動していくかというようなことを考え、学ぶ機会が必要なのでは、と思ったのだ。前例がない以上、教える先生もいるわけがない。先生の立場の人間も一緒に考える。これまでにない情況の中で、いったいどう考えていったらいいのか、考えるチカラのようなものを養っていくにはどうしたらいいのか、そんなことを考えるようになっていった。その中から出てきたのが、いまここでやっている「アンサンブルズ・アジア・オーケストラ」だったり、『学校で教えてくれない音楽』(岩波新書)でやってみたようなワークショップだったり。だから、はた目にはわかりにくいかもしれないけど、オレにとっては震災後の動きとアジアでのプロジェクトは繋がっているのだ。

 

経験したことのない情況の中で自分で考えていくということと同時に、そこには常に他者がいるという認識が必要だと思っている。音楽には答えはないし、正解もないけど、でも明らかにいいなと思えるものがあったり、なんかダメかなってもんもあって、でもそれは人によってかなりまちまちで、そんなまちまちな人たちがアンサンブルを組んでいかなくてはいけないのが音楽なのだ。それをこれまでの音楽の技術にあまり頼ることなく、自分のチカラで他の人とともに探っていく。これって言い換えれば、自分の生きている環境の中で、他者とともに自分たちで思想を編み出すということだとも思うのだ。おおげさに聞こえるかもしれないけど、でもオレはそういうことをやっているつもりだし、ここでもそういうことをやろうとしてる。

そしてもうひとついっておきたいのは、東北のことを考えるのには、東北以外の場所も見たほうがいいということだ。それもできることなら、言葉の通じない場所、自分たちとはまったく異なる文化の場所があるんだということを身をもって思い知った方がいい。その上で、東北を選ぶなら、そこでなにかをしていけばいいと思う。いや東北だけの話じゃない。どこであれ、自分とは異なる文化や言葉が世界にはたくさんあるという世界地図のようなイメージを常にもった上で、なにかを考えた方がいいと、オレは素朴に思っているのかもしれない。

そんなわけで、「東北発☆未来塾」の収録の地を、8月の福島と9月のベトナムという二段階にさせてもらった。生徒たちには授業のようなことはほとんどせずに、とにかく現場で考えてもらう。これから集まってくるベトナムの学生たちも同様だ。自作楽器のオーケストラの現場を一緒になって考え、一緒に作っていければいいと思っている。なにしろ誰一人経験したことないことをやるわけだから。

 

コレクティブ・オーケストラ・ワークショップ

前置きがすっかり長くなってしまったけど、今日からワークショップがはじまる。日本から来る学生とハノイの日本語を学ぶ大学生達二十数名からなるメンバー達にオーケストラの骨格となってもらい、日曜日に行われるコレクティブ・オーケストラの本番では、学生たちが多数参加予定の一般の人たちをひっぱっていくことになる。つまりは、一般の人たちが参加するワークショップのリーダーになってもらおうという趣旨だ。

このアイディアを考えたのは有馬ディレクター。ツリーのように上からの命令系統で動くのではなく、各自が自分たちで考えながら、さまざまな繋がりを自生的に作っていくような、そんなオーケストラのあり方を考えてのことだ。

 

15時過ぎ、朝早く羽田を発った日本のメンバーが到着。さっそく未来塾の学生たちに受付を準備してもらう。彼らの最初の仕事がベトナムから参加の学生の受付だ。藤さんは、早くも僕らの作った金属の楽器やら、大量に購入した竹に反応している。これだったらあんなことやこんなことができると、たくさんのアイディアを出してくれる。ありがたい。

16時過ぎ、ベトナムのメンバーも続々と集まってくる。地元の学生はなぜか全員女子で、いちおう日本語学科の子が中心なので、程度の差こそあれ、多少は日本語を話す。総計二十数名。ここに日本の男子学生3名、女子学生3名が加わり、さらには藤さん、ガーさん、ソンさん、加納さん、有馬さん、交流基金の河井さん、そしてわたしの大所帯だ。

まずは自己紹介。日本語と英語、ベトナム語が飛び交う。ベトナムの学生たちはみな元気だ。わたしから、今回どんなことをやるかの説明をしたあとは、いきなり中庭に出て、みなで音を出してみることにした。未来塾の学生には事前に日本でワークショップをしたりしていて、いちおう台所用品や日用品を使って、なんとなく楽器っぽいものを作って持ってきてくれている。ハノイの学生たちにも、なんでもいいので音の出るものをもってきて……とは伝えてあって、ペットボトルや食器、缶やら、竹やら、いろいろなものを持ってきてくれている。そんな思い思いのものを持ち寄って、まずは音を出すワークショップをやることにした。これまでいろいろなところでやってきた、簡単な合図で音を出す方法やら、シンプルなリズムを合わせたりしながら音をリレーのように回すゲームなんかをやってみることにした。これなら楽器が弾けなくてもすぐにできる……そう思ったからだ。

まずは、合図で短い音をだしたり、長い音を出したり。よし、いけるいける。ところがである。リズムを合わせるようなものをやると、とたんにうまくいかないのだ。最初は説明が通じてないのかと思ったけど、どうもそうではないようだ。何度やっても、何度実例を見せても、なかなかテンポを合わせてくれない。なんで? こんな経験は初めてだった。どうもベトナムの子たちは、リズムを合わせることに慣れていないらしい。

さてさて、どうしたもんか。これまで、そんなことはあんまりやったことがなかったけど、というか、あんまりやりたくなかったけど、でも、まずはリズムの練習をしたほうがいいのかもしれない。ワークショップの後半は、手拍子を打ったりして、リズムの練習もしてみたけど、う~~ん、効果あったかな。

ワークショップ開始

その後は有馬さんの指導で、二十数名のメンバーを4~5名程度の6チームに分けることに。それぞれの班には日本の学生に一人ずつ入ってもらう。そして、各班で話し合いながら、今日、明日あさっての3日間で楽器製作の準備をしてもらう……っていきなり書いても、なんのことやらですよね。え~~と、わかりやすく説明します。

そもそもベトナムでは、一般の人が楽器を持っていること自体あまりないので、まずみんなでどこでも手に入る素材や日用品を使って簡単な楽器を制作し、それでオーケストラを組もうと考えたわけです。ただその際いきなり、楽器を自分で作って持ってきてくださいといっても、なにがなにやらということになるのは明らか。

 

そこでまず、ワークショップで学生たちに、いくつかのチームに分かれて、自分で簡単に作れる楽器を工夫してもらうことにした。学生たち各班で話し合って、未来塾の学生が作ってきた楽器を参考にしたりしなかったりしながら、どんな楽器なら作れるか、どんなもので音を出したら面白いかなど、自作楽器の可能性を探ってもらう。翌日の朝は、街に買い出しに行って試作品をいくつか作り、面白そうなものができたら、今度はその楽器をみなで作れるよう素材を集めたり、といった準備をしてもらう。そして4日後の本番の日には、先ほどもちょっと書いたとおり、学生たちに一般参加のワークショップでのリーダーになってもらい、当日会場に来た一般の人たちと一緒に、楽器作りのワークショップからはじめ、そこでできた楽器を使って全員でオーケストラを作ろうという趣旨なのだ。

ということで、今日は、各班まずはその話し合いを開始。

日本語を学ぶ学生といっても日本語のレベルはまちまちというか、ほとんどかたことみたいな子もけっこういたりで、未来塾の学生たちはコミュニケーションに苦労している様子だ。でも、そのへんはあまり助け舟を出さないことにした。冷たいヤツって思われたかもだけど、そんなもんも含めての交流であったほうがいいし、そこから思わぬもんが生まれるかもしれない。そんなこんなをしているうちに、あっというまに19時。明日もあるんで、今日はここで解散。ベトナムの学生たちはみなバイクで家路へ。未来塾の学生たちはNHKのクルーとともに夕食へ。僕ら大人チームは、初めてハノイに来る藤さんとともに街を歩きながら、大人の夕食へ。

各班で話し合いを開始(撮影:大友良英) 各班で話し合いを開始(撮影:大友良英) 各班で話し合いを開始(撮影:大友良英) 各班で話し合いを開始(撮影:大友良英) 各班で話し合いを開始(撮影:大友良英)