JAMJAM日記|ベトナム編 大友良英 Otomo Yoshihide

撮影:石川直樹

2015/09/21

ハノイ、素材探しの旅へ

いつものこととはいえ、結局徹夜のまま朝の羽田空港へ。スーツケースの中身は、いつも持ち運んでいるギター用のエフェクターやコード、弦やギターを弾くためのさまざまなプリペアド、3日分の着替えに薬やひげ剃りなんかの最低限の日用品、そこに今回は録音機材と各種ペンチ、ニッパ、ドライバー、ハンダごてといった工具類多数が加わり、いつもよりだいぶ重い。あとは中身もケースも傷だらけのギターに、MacBook Air、手帳にカメラ、パスポートと譜面ノートが入ったショルダーバッグ。最低限の携行品で、あわせて30kgちょい。長年旅をしてると、持っただけでだいたい何kgかわかるようになる。

オーバーブッキングのおかげでビジネスクラスにまわされる。ラッキー。ハノイ便はビジネスマンでいつも混んでいるそうだ。空港のラウンジでディレクターの有馬恵子と今回の旅のスケジュールの最終確認。彼女がスケジュールだけでなく、詳細にワークショップの計画をたてている。その準備のために有馬さんは今年の頭から3回もベトナムに来ている。

機内にはいって、席に着いたとたんに熟睡。せっかくのビジネスの食事もとらないまま、ハノイに到着。でも、おかげで5時間、ぐっすり寝れた。オーバーブックとラッキービジネスに感謝。

到着は午後1時。暑い。日本との時差はマイナス2時間。1年ほど前にできたハノイの新しい空港で出迎えてくれたのは、国際交流基金ハノイ支部の河井淳さん。基金の用意してくれた車で約1時間ほど走って、市内中心部にある国際交流基金ハノイ事務所に到着。ここの中庭が今回の会場になる。早々にワークショップに使う教室なんかをチェックしつつ、明日からのスケジュールをチェック。

プリペアド

ここでは、ジョン・ケージの発明したプリペアド・ピアノを応用して、ギターの弦に装着して複雑な響きを生み出すための洗濯バサミ、ゴム、ネジなどの意。

その後は旧市街にある小さなホテルにチェックイン。フロントの女性たちから「ケイコサ~ン、ケイコサ~~ン」と黄色い歓声。彼女は毎回ここに泊まっていて、従業員たちとすっかり仲良くなっている。頼もしい。すぐに、有馬さん行きつけのワンタンメン屋で、早めの夕食。ここでざっと旧市街の様子を教えてもらった後は、一人で、自作日用品楽器の素材探しの旅へ。ちなみにここのワンタンメンが実に美味くて、滞在中3回も行ってしまった。スープはチキンベースの透き通ったもので、麺は香港にもよくある細い卵麺。ワンタンは揚げた大きなものから、小さいものまで各種はいっていて、いずれも肉や野菜がぎっしり詰まってる。さらには何種類ものチャーシューと野菜。これでたったの35000ドン、日本円にして200円もしない。あ、ベトナムのお金ドンと日本の円の換算、最初はゼロが多すぎてかなり難しいけど、ドンのゼロを3つとって5をかければいい。35000ドンだったら、ゼロをみっつとって35、これに5をかけると175円って感じだ。

ホテルから徒歩15分圏内に、ありとあらゆる素材の店がある。なるほど、それでこのホテルをとったのか。竹をその場で加工してくれる露天商ばっかの一角があったり、金属加工店街があったり、おもちゃ屋ばっかの地域もあれば、工具やネジなんかを売っている店が集中する通りもある。楽器屋や仏具屋が集中する通りなんかも。おまけに27日の中秋の祭りにむけて、すぐ近くの通りにおもちゃやお祭り用品を売る屋台が大量に出ていて、街中が祭りのようだ。

撮影:大友良英 祭り(撮影:石川直樹)
ありとあらゆる素材の店(撮影:石川直樹)

ありとあらゆる素材の店(撮影:石川直樹)

旧市街の通りはどこも狭く、日本で言えばせいぜい2車線の道なんだけど、ここにものすごい数のバイクがあふれ、さらに車も行き交っている。日本だったら大渋滞ってところだけど、その狭い中を、ものすごい量のバイクと車が、まるで血管の中を流れる赤血球や白血球の拡大映像を見てるかのように、前後左右あらゆる方向にごちゃごちゃに混ざりながら、ぶつかることもなく流れていく。人はその合間を見つつ、ゆっくりと車道を横切っていく。信号機も横断歩道もほとんどないのに、いったいなんでこれで接触事故が起きないのか不思議なくらいだ。みなクラクションはよく鳴らすけど、でも決して怒ったりイライラしているふうではない。かつてのソウルや北京、バンコク、ものすごい交通量の街は見てきたけど、こんなに狭い道で、ゆらゆらと接触することもなく器用にいらつきもせずにバイクや車を活用している人たちを初めて見たような気がする。

それにしても、歩いていて油断ならない。いつどの方向からバイクが来るかわからないし、そもそも歩道は駐車したバイクでいっぱいで、人も車道の隙間を縫って歩くしかない感じなのだ。でも、全然いやなかんじじゃないというか、むしろわたしには居心地がいい。自分でどう歩くか、走るか勝手に決めていいのと同時に、でもよくよく見ると、みな戦闘的にならずに、うまく譲り合っている。自由と制御の共存とでも言ったらいいのかな。それが実に心地いい。日本だったら、こんなことしたら、力の強いもんがどんどん前に出て、あっという間に、機能しなくなっちゃう気がするなあ。まあ、とはいえ気を抜くと危ない。

歩いていて油断ならない(撮影:大友良英)

街の様子や売っているものを把握しつつ、参考のために竹製のシンプルな打楽器や笛をいくつか購入したり、祭りの屋台で、いくつか音の出るおもちゃを購入したりと3時間ほど歩き回ったところで、夕立。あわててホテルに戻ると、外はものすごい雷に。かなり近い。雨も半端ない状態だ。とても外には出れそうにない。部屋に戻って、明日から作る楽器のスケッチをいくつか書いているうちに、眠くなってしまい、ちょっとベッドでごろんとしたとたん、そのまま朝まで熟睡してしまう。

音の出るおもちゃを購入(撮影:石川直樹)