JAMJAM日記|タイ編 大友良英 Otomo Yoshihide

2015/03/26

サンデーマーケット・オーケストラに向けて

ホテルのロビーで今回のオーガナイズをお願いしているチェンマイ大学メディアアート学科講師のアーノント・ノーンギャオ(Arnont Nongyao)さんとと待ち合わせて、まずは土曜のワークショップやライブ、そして日曜のサンデーマーケット・オーケストラの会場になるチェンマイ大学付属のラーンナー・アーキテクチャー・センター(Lanna Architecture Center)へ。ここの周辺一帯が日曜はサンデーマーケットになる。いいロケーションだ。

次に行ったのはチェンマイ郊外にあるアーノントさんのスタジオ。元倉庫だった場所をアーティストや音楽家、デザイナーたちがシェアしてアトリエのように使っている。アーノントさんの工房には、カリフォルニア大学バークレー校で現代音楽を専攻していたビッグ・タッチャタム(Bigg Thatchatham)さんや、今回このイベントのためにバンコクから来たキティパン・ジャンブアラー(Kittiphan Janbuala)さんが、さまざまなエフェクターやPC、DIYのジャンクエレクトロニクスを使って、聴き慣れた電子音と映像を出している。アーノントさんはカセットのヘッドをペンシルのような形状にしたものを、テープが張りついて回転しているCD盤に押し当てて、くしゃくしゃいう音を出している。昨日までいたバリとは全然別の、オレにとってはむしろ日常といえるような世界。彼等もサンデーマーケット・オーケストラを楽しみにしているようだ。

エフェクター

音を歪ませるディストーションや、音をわずかに遅らせるディレイなど、電気楽器に接続して音質を変化させる装置。

ジャンク

がらくた、廃物。また、それを利用した楽器。

エレクトロニクス

ここでは電子楽器のこと。

その後はアーノントさんの奥さんが運転する車で1時間ほど走ったサワーン・ペート(Sawang Petch)寺院へ。この寺院を拠点として、タイの少数民族の子どもたちが、「ラック・ティン・カード」(Ruk Tin Kerd)というグループを結成し、ラーンナー文化の音楽とダンスを勉強しているという。到着早々、いくつもの打楽器を演奏しながら二十数名の子どもたちがさまざまなパフォーマンスを披露してくれる。予想もしない出迎えに驚いてしまったけど、素晴らしい演奏、踊りで、あっというまに気持ちが上がってしまった。

Lan Na(ラーンナー)

マンラーイ王が1292年にタイ北部に築いた王国。チェンマイ王朝ともいう。建国後はマンラーイ王家の血筋にあるものによって統治されたが、16世紀半ばから18世紀半ばまではビルマの覇権下に入り、ラーマ5世時代のチャクリー改革を受けてタイ王国の一部となった。

参加してるのは小学校に上がる前の子どもから成人してる子まで、さまざまな年齢の子たちで、学校が終わるとここに集まってきて、練習をするのだそうだ。運営しているのはさる弁護士さんで、私財を投じてこの活動を続けている。家庭環境が厳しかったり、居場所がなくて不良化しがちな子どもたちにとって、この活動は大きな意味を持ってるそうだ。オレもときどき参加してる大阪、西成の子どもたちとやっているブレーカープロジェクトの活動を思いだす。そういえば、ブレーカープロジェクトをやってる雨森さんもたびたびタイを訪れていたけど、もしかしてこのあたりなのかな。今度話を聞いてみよう。

実はアーノントさんの奥さんもここの出身だそうで、そんな縁もあって僕らを連れてきてくれたのだ。彼等にもサンデーマーケット・オーケストラに参加してもらうようお願いしてみる。何人かが来てくれそうだ。嬉しい。

ブレーカープロジェクト

2003年よりスタートした、芸術と社会をつないでいくことを目的とし、表現者と鑑賞者双方にとって有効な創造活動の現場をまちの中に開拓していく地域密着型アートプロジェクト。西成区の「新・福寿荘」を創造活動拠点とし、きむらとしろうじんじん、薮内美佐子、呉夏枝、山田亘、梅田哲也、大友良英がそれぞれのプロジェクトやワークショップを行う。
http://breakerproject.net/

雨森信(あめのもり・のぶ)

インディペンデント・キュレーター。大阪市の地域密着型アートプロジェクトBreaker Project(ブレーカープロジェクト)ディレクター。大阪市立大学文学部特任講師、同大学都市研究プラザ特別研究員。

夜は新婚のアーノントご夫妻お薦めのチェンマイ料理屋へ。チェンマイはどこに行っても、本当に美味い。安い屋台だろうが、よさげなレストランだろうが、どちらも抜群に美味しい。この店もものすごく美味くて泣きそうだった。ここではじめて蟻の卵料理を食べる。昆虫食は長野の蜂の子や蜂の成虫、東北のイナゴ、中国の蝉の幼虫くらいしか食べたことがないけど、どれも美味なのになんとなく食べるのにほんの少しだけ勇気がいるのはなんでかな。似たような見た目のエビやカニならバリバリ食べちゃうのにね。この蟻の卵も独特の酸味があってなかなか美味いんだけど、どこか頑張って食べてる感じになってしまう。大袈裟にいえば食べてみたいって好奇心と異文化を拒もうとする保守的な身体(舌)がせめぎ合っている感じかな。この感じ、もしかしたら音楽をやっているときにも、どこかにあるんじゃないだろうか。


ラーンナー音楽(撮影:大友良英)
子どもたち(撮影:大友良英) 蟻の卵(撮影:大友良英)