サンデーマーケット・オーケストラ

サンデーマーケット

2月19日、バンコクからチェンマイに飛行機で移動する。春節(中国正月、ベトナムではテト)のためか、飛行機は満席。
チェンマイの予備調査は2度目である。大友さんや石川さんなどのチームで行く「本調査」と違って「予備調査」は一人で行く事前調査。つまり下準備である。しかしチェンマイで何ができるのか、全く思いつかない。それはチェンマイが魅力的でないとか、何もないとかではなく、むしろその逆で、芸術・文化、実験音楽が「ありすぎる」状況のなかで、私たちに何ができるのか、その目的や意味を考えあぐねていた。

これまで「アンサンブルズ・アジア・オーケストラ」は、どちらかというと「辺境」と言われる地域に入り込んで、調査を行ってきた。最初のフィリピン調査ではシキホール島と北部のオロンガポを、インドネシアではスラヴェシ島、バリ島西部、ジャワ島の最東端バニュワンギを選んでいる。「辺境」にこだわりがあるわけではない。ただ「辺境」と言われる場や人の日常の音楽の中に、それまでの思い込みを覆す驚きや発見があった。このプロジェクトの基盤は「音楽家による音楽」ではない。対象や目的に対する距離感、この場合だと「音楽」との距離感、「ここで一緒にやるってありえるのか」という感覚があればあるほど、良いのではないかと思っている。私たちはその「驚き」や「発見」が何であるのかを、まずは知りたいし伝えたい。「辺境」に行くことが多かったもう一つの理由は、大友さんはアジアにおいても実験音楽と言われるシーンの中心人物である。そこで得てきた経験と真逆の環境を用意したいという思いがあった。

当初は、実はチェンマイではなく「チェンダオ」というチェンマイから1時間程の場所での調査を想定していて、村の人を対象とした小さなワークショップをやるつもりでいた。しかし……バンコクからチェンマイに向かう飛行機では既にチェンマイの都市空間の中で沢山の人たちを対象としたワークショップをやろう、と決めていた。日本でも一般の人たちとやってきた即興のオーケストラを大友さんがチェンマイの人とつくる。そうと決めたら思いっきり賑やかな「祭り」にしよう。フィリピンでは、小さな島の子どもたちの音楽を、インドネシアでは「ヴァナキュラー」な音楽を発見した。しかしチェンマイではお祭りのようなオーケストラを実際につくる中で場所や人、音楽を発見しよう。飛行機の中で覚悟を決めた。

到着したホテルのロビーでチェンマイ大学メディア・アート&デザイン学科講師のアーノット(Arnont Nongyaow)さんと、つい先日までカリフォルニア大学バークレイ校で作曲を学んでチェンマイに戻ってきたばかりのビッグ(Bigg Thatchatham)さん、沖縄県立芸術大学からチェンマイ大学に留学中の野田さんと合流し、近くのカフェに移動した。そしてチェンマイで、一般の人を対象とした即興演奏のオーケストラをつくりたいという話を切り出した。アーノットさんはチェンマイ大学メディア・アート&デザイン学科の講師でもある。その生徒たちに協力してもらうことも織り込んでいた。これまでの調査の映像を見せて、男木島でのワークショップの映像も見せて……ちょうど、そのカフェはチャーン・プアク門(北門)から中心に向かって真っすぐ延びる道沿いにあり、その先はチェンマイの心臓部で毎週日曜日にはチェンマイの観光名所「サンデーマーケット」が開かれる中心部である。私たちは自然と「サンデーマーケット」の話題になった。

前回の調査で映像作家のソム(Sutthirat Supaparinya)さんとアーノットさんと一緒にサンデーマーケットに行き、その雰囲気、エネルギーは経験済みだ。「サンデーマーケットでワークショップができないか。そうだサンデーマーケットでオーケストラをやろう」。気がついたらそう言っていた。名付けて「サンデーマーケット・オーケストラ」。皆あれこれと想像を膨らませる。アーノットさんは自転車を楽器に改造したものをつくれないかとあれこれと話している。ビッグさんは「ペーパー・オーケストラ」という紙を使った音で音楽をつくることを話している。それぞれが想像しているオーケストラは違うが、でもそれでいい。
あれやこれやと話をして、日曜日の「サンデーマーケット・オーケストラ」と、その前日にワークショップ、レクチャー、パフォーマンスなどをやること、などのプログラム案をまとめた。そして翌日から早速、そのアイデアを実現するために、さまざまな場所に行き、人に会い、プログラムを固めていった。

そして日曜日にサンデーマーケットを再び訪れる。春節のためか、前回以上に中華圏からの旅行者で凄まじい人の波である。無数の小さな店が並び、日用品、土産物、食べ物、路上マッサージなど、ありとあらゆるものが所狭しと並んでいる。そして店も人もどこまで行っても途切れることがない……。立派な店舗のショーウィンドーには決して並ばない品々。皆が好きにいろいろな所から持ち寄って、それらが集合してマーケットが形成されている。音の洪水に溢れ、沢山の言語が飛び交う。地元の人も旅行者も、皆がバラバラで、でも一つの空間を共有している。ここが大友さんの即興オーケストラのアジア初舞台なのだ。どこまで行っても途切れることがない人ごみを歩きながら、そんなことを考えていた。

 

詳細はこちらに

サンデーマーケット・オーケストラのイベントページ
https://www.facebook.com/events/942086072488839/

アンサンブルズ・アジア・オーケストラのFB
https://www.facebook.com/EnsemblesAsiaOrchestra

動画(大友さんのビデオ・メッセージ)
https://www.youtube.com/watch?v=JxkgLwlPHR4