JAMJAM日記|インドネシア編 大友良英 Otomo Yoshihide

撮影:大友良英

2015/03/21

意外に静かなバリの新年

今日はニュピと呼ばれるバリ暦の新年。でも、僕らの感覚の新年だと思うと、えらい間違いを犯してしまう。ニュピの日は、バリ島の空港やバス、タクシーといった公共交通のすべてが止まる。ありとあらゆるお店やレストランもいっさいやってない。OKストアやセブンイレブンももちろん休み。それどころか、家から外に出ることも厳禁。仕事はもちろん食事も禁止。電気が止まるところもあると聞く。バリ・ヒンドゥー教では何もしてはいけない日なのだ。大晦日の喧噪の対極、それがバリの新年なのだ。

バリ・ヒンドゥー教徒ではない僕ら外国人も、公道に出ると警察に捕まってしまうそうだ。何の法律に触れるのかは知らないけど、ここにいる以上は、そこのしきたりに従うのがマナーということだ。つまりは、僕ら外国人一行もホテルやビラから外に出ることはできないし、ホテルのレストランも基本やってない。郷に入れば郷に従えとはいえ、断食までおつきあいするのはちょっとなんで、僕らは前日のうちにコンビニでカップ麺やらお菓子やらを、レストランでテイクアウトの保存食やらを入手して、この日に備えた。

ところがである。昨夜、喧噪の祭りからホテルに戻ると、明日の夜のご飯が注文できるという。あれれ。朝ごはんはふつうにやってるそうだ。おまけに、ホテルについてるスパのマッサージサービスは、明日も通常通りやってるそうだ。ん? ん? あとでカデさんに聞いたら、基本、外には絶対出ないで家でおとなしくしているけど、最近は、こっそりご飯を食べる人も結構いるらしい。カデさんは断食したの……と聞いたら、ニコッと笑って「気持ちだけは」だって。あはは。外国人向けの仕事をしている、例えばホテルの人たちも、外には出ずに、こうして仕事をしてくれている。ありがたいことだ。原理主義的な発想が苦手な僕には、こういうゆるさはうれしい。それでもさすがに外に出るのはやめた。ホテルの前の道をこっそり覗いてみたけど、本当に人っ子ひとりいなくてシーンとしている。オレも何年かぶりにオフにすることにした。原稿とか待ってるみなさん、本当にごめんなさい、今日は仕事はしない! 休みま~~す。

日中はホテルのプールで泳いだり、あ、オレは運動神経ゼロなんで泳ぎヘタくそですが、石川くんはさすがの上手さ。そしてスパに行って虫の音や鳥の声を聞きながらマッサージをしてもらったり……気持ちよかった~~~。あとは部屋で昼寝をしたりごろごろしただけ。

夜は、注文した料理をかこんでテラスで石川くんや有馬さんと今後の話を。実は石川くんは6月からK2登山に挑む。10人中4人が死ぬような山だという。かつて、本当に危険だと思ったらその先には行かないと公言した彼が、それでも行きたいのだという。よく登山家は「そこに山があるから登る」って言うけど、石川くんはどんな気持ちなんだろう。自分に置き換えたときに、例えば音楽そのものが生きるってことだとははっきり言えるけど、仮に音楽をやったら殺されるような状況で命をかけて音楽をやるかって言われたとしたら、チリの歌手ビクトル・ハラみたいな状況に置かれたとしたら……いやいや、そんなの想像しただけでも恐すぎる。オレだったら死ぬかもしれないステージには絶対行かない。山のこととか大自然とかに興味のないオレは、なんだか見当違いのことばかり考えてしまう。ただただ石川くんに死んでほしくない……それだけなんだけどね。でも、ついつい
「オレには冒険とか全然わかんないや」
なんて無神経なことを言ってしまった。
「いやいや、大友さんのこれまでの人生ややってきたことが冒険じゃないですか……」
う~~~ん、石川くんはやさしいからそんなことを言うけど、オレはただただ音楽やってきただけで、死をかけて山に行くのとは全然違う。

ふと空を見ると、信じられないくらいの星空だ。今までだって、ものすごい星空をたくさん見てきている。福島の山の中とか、30年前の中国海南島の山の中の夜になると電気の止まる村とか、ノルウェーの山中でオーロラとともに見た星空とか。どれも感動するくらい素晴らしかったけど、さらに一桁違う量の星で、輝き方も尋常じゃない。ここまで見事な天の川を見たことがない。街の灯が消え、車が止まるだけで、こんな夜が訪れるのだ。日本にもニュピがあっていいんじゃないかな。いっそのこと年に2~3回とか。

僕らは、いつまでも、いつまでも、無限の銀河を黙って見上げていた。虫やカエル、よくわからない動物たちの声のリズムが幾重にも重なって無限のガムランのようだ。そんな音を聴きながら、オレはずっと石川くんのことを考えていた。

石川くん、元気で帰ってきて、またこの旅に参加して!

Victor Jara(ビクトル・ハラ)

1932−1973年。チリのフォルクローレのシンガー・ソングライター。歌を通じて社会変革を目指した「ヌエバ・カンシオン(新しい歌)」運動 Nueva canción の旗手のひとり。1973年9月11日、ピノチェト将軍の軍事クーデターによるアジェンデ政権崩壊直後に軍に逮捕され、チリ・スタジアムに連行されて虐殺された。

ニュピの日の星空(撮影:石川直樹)

ニュピの日の星空(撮影:石川直樹)