JAMJAM日記|インドネシア編 大友良英 Otomo Yoshihide

撮影:石川直樹

2014/12/12

イシャリヤディさんに代わって今日から国際交流基金ジャカルタ支部のDiana(ディアナ)さんが参加。素敵なお母さんって感じの方。さらには日本の国際交流基金の吉岡さんも駆けつけてくれて合流する。楽しくなりそうだ。

午前中はヴェンザの紹介でジョクジャ(インドネシアではジョクジャカルタのことを「ジョクジャ」と呼ぶことが多い)郊外にあるフリースクールへ。田んぼや畑の中にいい感じの小さな木造2階建ての校舎が建っていて、小さい校庭もある。幼稚園くらいの小さい子どもから中学生くらいの子どもたち数十人が、1階部分を占有する広めの教室で、皆一緒になって、遊んだり学んだりしている。インドネシアはどこでもそうだけど空調はなくて窓が全開、開放的で気持ちがいい。通常の学校と違って、学年も分かれてなければカリキュラムも自由。教育への意識が高いというか、かなりリベラルな親の子どもたちが来ている感じなのかな。いろいろ説明を受けたけど、インドネシアの「普通」の教育のことを知らないので、この学校がどの程度ほかと違うのか、どの程度自由で特殊なのか、実際のところはよく分からない。分からないけど、相当自由なのは間違いない。

楽器なしのワークショップの難しさ

ヴェンザは、オレに音楽のワークショップをやってもいいよって感じで、この自由な学校に連れてきてくれたんだけど、正直、楽器もないところで、ほとんど何の前提も知らずに、いきなり何をやっていいものやら、困ってしまった。それでも、まずは皆が歌うことになって、遊び歌のようなものを歌いながら、ゲームのようなことをしたりするのを見せてもらった。楽しそう。

こういうときにオレが困るというか力不足なのは、子どもをひっぱれるような歌が歌えないことだ。せめて何か皆で演奏できる楽器があれば何とかできるんだけどなぁ……。テニスコーツのさやさんが、時々会場の子どもに歌いかけて一緒に音楽をやったりしてるのを思い出しながら、何かできないものかと思案。そうだ、試しに『学校で教えてくれない音楽』って本をつくる際にやったワークショップで、さやさんが来てくれてやった自分の名前を繰り返しながらメロディをつくって、皆でコールアンドレスポンスをして音楽をつくっていくやつを試してみるか。

ってことで、自分の名前の「お~~とも」から始めていろいろやってみたんだけど、ほんのちょっとは面白くなったんだけど、でも、何だか、グルーブせずに途中でしぼんでしまって挫折。難しいなぁ。ってか、さやさんだったら、こういうのを延々広げて、とんでもない音楽をつくっていくわけだけど、それって本当に凄いことだし簡単じゃないんだなってことを実感。当たり前か。

テニスコーツ(Tenniscoats)

さやと植野隆司によるポップユニット。大友良英との共演も多い。

ジョグジャのフリースクール(撮影:大友良英・有馬恵子)

オレにワークショップの機会をつくってくれたヴェンザには感謝だけど、やっぱり、言葉が通じない初めての土地に行っていきなり何かをやるっていうのは少々無理があるなぁ。そもそも声だけで何かつくるようなスキル、オレにはないもんなぁ。そういう場合はやはりちゃんと声でやれる人が入ってやらないと難しいと思うし、そのほうが面白いと思う。オレにできることは、楽器、ないしは音の出るものを皆に持ってもらって、それでアンサンブルをつくっていくことだと思う。楽器のない場所であれば、それに替わるものを皆で一緒につくっていくとか、そういうところから始めないと、難しいなぁ。

ジョグジャのフリースクール(撮影:有馬恵子)

せめてギターを持ってくれば、演奏で自己紹介ができたのに……と後悔。ただ今回オレが持ってきているのはエレクトリックギターだし、アンプのないところでは音が出ないし、飛行機での移動だとアコースティックとエレクトリックの両方を持ってくるのは難しいし……う~~ん、でも、こういう場所にぱっと持ってきて自分の音楽をまずはやる……ってのが必要だよなぁ。せめてオレが何者なのかの自己紹介をしてから、一緒に何かをやる……みたいな方法、探していかないと。

お昼は、この学校で皆と一緒に給食を。ごはんとサラッとしたカレーにおかずって感じのチャンプルーごはん。美味い。ごちそうさま。お皿も皆と一緒に洗う。この頃には、何人かの子どもたちと仲良くなって、昼食後はお絵描きで遊ぶ。絵は大受けだ。何か音楽家なのに音楽じゃなくてお絵描きが受けてるオレって……。

ジョグジャのフリースクール(撮影:大友良英) ファブラボ(FabLab)(撮影:大友良英)

オルタナティブな面々のプレゼンを聞く

昼食後はフリースクールのすぐ近くにあるシアター・グラシ(Teater Grasi)へ。出来たてのスペースだそうで、木造平屋の小さな家屋と半野外の小さなシアタースペースから出来ている。ヴェンザが代表となっているクリエィティブ・プラットフォーム「HONF(ホンフ)」が運営する「FabLab(ファブラボ)」が、演劇を始めさまざまなプロジェクトを今後展開する予定らしく、僕らはどうやら、このスペースの最初の客人ということらしい。今日はヴェンザのコーディネートで10人ほどのジョグジャのミュージシャンやアーティストが半屋外のシアタースペースに集まって、それぞれ自分たちが今現在何をやっているのかを私にプレゼンしてくれることになっている。同時に私自身も何でここに来ているのか、そもそも自分がどんな活動をしているのかを彼等に紹介することになっている。集まってくれたのはEka JayaniAyuningtyas, Jimmy Mahardhika, Asa Rahmana, Jay Afrisando, Sofyan Hadi Purnomo, Taufiq Aribowo、Indra Hermawan/To Die, Rully Shabara/Senyawa, Uya Cipriano, Zamani Karmana……インドネシアを代表すると言ってもいいオルタナティブ・デュオ「センヤワ(Senyawa)」のヴォーカリスト、ルーリー・シャバラ(Rully Shabara)以外は、初めて聞く人たちばかりだ。それぞれがPCに入ってる映像を使って、自分自身の音楽や活動の説明をしてくれる。ミュージシャンに自分自身のプレゼンをお願いするなんて野暮なことだよなぁと思いつつ、でも、面白い! 面白いぞ。

紹介される彼等の音楽はノイズだったり、オルタナティブなロックやテクノだったり、即興演奏だったり、DIYエレクトロニクスだったり。しかもそれをPCを使って英語で紹介してくれる。これまで、ずっとガムランとかジェゴグとか、バニュワンギのポップスとか、子どもの音楽とか、言ってみればオレが住んでいるのとは別世界の音楽に触れる旅だったわけだけど、ここで突然、いつもの自分の日常の世界に帰ってきた感じがする。もしかしたら、これは、このプロジェクトでやろうとしている音楽家なしのオーケストラのプロジェクトとは違うかもと思いつつ、でも、彼等一人ひとりは、決してその音楽で生活しているプロフェッショナルというわけではなく、言ってみれば都市の風土の中で生まれたヴァナキュラーな音楽であることには変わりないかも、そんなふうにも思いながら、プレゼンを聞いていた。

とりわけ面白かったのは、インドラ(通称 To Die)等がやってる公共の場所でのゲリラ的なノイズライブ。お客さんがいる通常のライブと違って演奏者とスタッフや友人くらいしかいない感じで、公園やら、何やらどこかの空きスペースやらでゲリラ的にノイズライブをやってるんだけど、管理人さんに怒られて演奏が止まったりなんて様子まで映っていて、ちょっとしょぼくておおらかだけど、どこかラディアカルな暴力性のようなものも感じられて実にいい。ただプレゼンを聞いているだけじゃなく、オレも興味を持ったところはいろいろ質問したり突っ込んだりしてみる。

一通り紹介が終わったところで今度はオレの番だ。日本のノイズやインプロバイズド・ミュージック(即興音楽)、オルタナティブな音楽の歴史を振り返りつつ、自分自身が何でこんな音楽をやっているのかって話をする。来てくれている人たちは実際にオレの音源を聴いてくれている人たちも結構いるけれど、何で、こういう音楽をやってるかという話は伝わってないと思うし、そういう意味でも皆強い興味を持ってくれたように思う。同時に思ったのは、ここではオレが何をやってきたのかという話は通じやすいというか、共通のコンセンサスみたいなものが双方にあって、互いにやってることを理解しやすいということだと思う。そこが、今まで回ってきたバニュワンギだったりフィリピンのシキホール島で出会った人たちとは全然違うところだ。

HONF Foundation

ジョグジャカルタを拠点に、メディア・アート・フェスティヴァルの開催やワークショップなど、多岐にわたり活動するクリエィティブ・プラットフォーム。

シアター・グラシでの対話(撮影:有馬恵子)

ちょっと見えてきた……か。

そんなことを考えていたときに思い出したのが、震災後福島に入って活動を始めた時のことだ。福島でもオレは同じような問題にぶち当たっている。自分がやってきてるような音楽は、決して一般的なものではないし、そのままやったのでは、全く通じないことも多々あって、でも同時に、そういう音楽に深くコミットしている人たちも少数ではあるけれど少なからずいて、そんな中で、いったい自分は何をやればいいんだろうと思い悩んだ末に、やりだしたのが楽器の演奏経験のない人たちも、経験のある人たちも一緒くたになってやることのできる「オーケストラFUKUSHIMA!」であったり、老若男女一緒に楽しめる盆踊りであったり、あまちゃんの音楽であったり、普段はノイズなんてやることない場所での「ノイズ温泉」や「ノイズ電車」であったり。福島でやってきたことを、そのままアジアに置き換える気は全然ないんだけど、ただ、それぞれの土地の文脈のようなものを充分に知った上で、自分に何ができるかというのを出会った人たちと丁寧に、かつ柔軟な瞬発力をもって考え、実行していくって方法しかないのかなって思うのだ。ジョクジャで出会ったオルタナティブな彼等との間でも、バニュワンギで出会ったような人たちとの間でも、一緒にやっていけるような何かを探していくのか、あるいは、双方、それぞれ違う方法を見つけていくのか、今はまだ分からない。それでも、ジョグジャに来て、初めて、自分の音楽の話ができ、双方向の会話のようなものが持てたのも事実で、それまで雲を掴むにさまよってきたところから、一歩先に行けたような、そんな感じもしたのだ。

明日は彼等とシアター・グラシでライブをやる。今から楽しみだ。

オーケストラFUKUSHIMA!

2011年に福島で結成されたアマチュア/プロフェッショナルを問わない一般公募のメンバーによる、特殊巨大オーケストラ。

ノイズ温泉・ノイズ電車

2012年「フェスティバルFUKUSHIMA!」の関連企画として、福島県飯坂温泉一帯で実施されたノイズ・ミュージックのイベント。

ジョグジャの若手音楽家たちと(撮影:大友良英) ジョグジャの若手音楽家たちと(撮影:大友良英) ジョグジャの若手音楽家たちと(撮影:大友良英) ジョグジャの若手音楽家たちと(撮影:大友良英) ジョグジャの若手音楽家たちと(撮影:大友良英) ジョグジャの若手音楽家たちと(撮影:大友良英) ジョグジャの若手音楽家たちと(撮影:大友良英) ジョグジャの若手音楽家たちと(撮影:大友良英) ジョグジャの若手音楽家たちと(撮影:大友良英) ジョグジャの若手音楽家たちと(撮影:大友良英) ジョグジャの若手音楽家たちと(撮影:大友良英) ジョグジャの若手音楽家たちと(撮影:大友良英)